英文名 | Sustainable use of living aquatic resources | |
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科目概要 | 海洋生命科学科3年後期(前半) [(15コマ)]、3群科目、選択、講義、2単位(30時間) | |
必要授業 時間外学習 | 60時間 | |
担当者 | ●吉永 龍起(増殖生物学 水族育種生物学) yosinaga@kitasato-u.ac.jp |
天然の生物資源を持続的に利用することは, 食料を安定して確保するために必須である. 一方, 我が国の漁業生産量は減少の一途にあり, 早急な対策が求められている. この原因は, 資源管理が不十分であることに加え, 漁業従事者の減少や高齢化, 国際的な競争力の低下など多岐にわたる. 持続的な利用の実現のためには, 資源の変動機構を科学的に理解すると同時に, 政治, 経済, 社会情勢などを多面的に考える必要がある. 本講義では, 水産資源の利用について様々な角度から論じ, 今すべきことについて考えるための材料を与えることを目的とする.
A: 多面的思考能力 | B: 自然科学の基礎知識・理解 | ◎ C: 専門分野の知識・技術 | ◯ D: 問題解決能力 |
E: 実務能力 | F: コミュニケーション能力 | ◯ G: 技術者倫理 | H: 継続的学習能力 |
01. 序:資源とは何か?
02. 遺伝資源
03. 水産資源の特徴
04. 生活史
05. 漁業権-1
06. 漁業権-2
07. 水産外交
08. 捕鯨問題, CITES
09. 漁業改革
10. エコラベル
11. 種苗生産-1
12. 種苗生産-2
13. ウナギの生態学
14. ウナギ資源の持続的利用
15. まとめと今後の展望
講義形式
種別 | 書名 | 著者・編者 | 発行所 | 値段(円) |
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教科書 | なし(講義内で適宜資料を配布) | |||
参考書 | 下記の書籍を講義内で紹介する | |||
参考書 | 魚類生態学の基礎 | 塚本勝巳 (編) | 恒星社厚生閣 | 4,725 |
参考書 | ウナギの科学 | 塚本勝巳 (編) | 朝倉書店 | 4,400 |
参考書 | 漁業という日本の問題 | 勝川俊雄 | NTT 出版 | 1,900 |
参考書 | 日本の水産資源管理 | 片野 歩・坂口 功 | 慶應義塾大学出版会 | 2,500 |
内容 | 学習・教育目標との対応 |
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1. 水産資源の持続的利用が必要とされる社会的な意義を理解する. 現状を理解し, 食資源の安定確保に関わる技術者として必要な知識を身につける. | 目標CDG |
2. 天然資源の変動を引き起こす機構を, 科学的に理解できる. また, これにより生じる社会への影響を多面的に考察できる. | 目標CDG |
3. 知識を与えられる“授業”ではなく, 考える材料を与えられる“講義”を受けることで, 自ら独自に考えるための技術を習得する. | 目標CDG |
筆記試験 (1 回): 水産資源が変動する原因を科学的に説明し, 同時に経済や国際関係といった幅広い視点から持続的な利用を実現する重要性を理解できているか [80%]
小論文 (1 回): 天然資源の持続的利用を実現するにあたり, 現状の問題点をいかに解決するかについて独自の考えをまとめられるか [20%]
評価基準: 到達目標の通りに評価する.
フィードバックの方法: 達成度確認の期間に答案の返却および解説を行う. また, 小論文に対して改訂のポイントを助言し, 完成度をより高められるようにする.
講義時間外の質問等は,すべてメールで受け付ける.
回 | 実施項目 | 学習内容と学習課題 | 担当者 |
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1 | 資源とは何か? | 本講義を受講する上で最も基礎となる "資源" とは何かについて理解するとともに, 講義の方針を理解し修得に必要な基礎事項を学習する. [予習] 指定図書, 配布資料等を熟読し, 以下の内容について理解しておく. 水産資源の管理; 生物の多様性; 海洋生物の特徴; 生活史 [復習] 以下の内容について, それぞれの意味および相互の関連についてまとめる. 持続可能な開発目標 (SDGs); 天然資源の特性 (更新性, 変動性, 無主物性); 水産資源の管理; 漁業資源の管理法 (入口・出口規制); 漁獲可能量ABCの管理 (ダービー方式, 個別漁獲割当 IQ, 譲渡可能個別漁獲割当 ITQ) | 吉永 龍起 |
2 | 遺伝資源 | 遺伝資源の有用性ならびにその利用にあたって問題が生じる原因と解決のための課題について学習する. [予習] 指定図書, 配布資料等を熟読し, 以下の内容について理解しておく. 生物の多様性 [復習] 以下の内容について, それぞれの意味および相互の関連についてまとめる. 生物の多様性 (生態系, 種, 遺伝子); ミレニアム生態系評価; 生物多様性条約; バイオパイラシー; 名古屋議定書 (Access and Benefit Sharing); カルタヘナ条約 (Living/Genetically Modified Organism) | 吉永 龍起 |
3 | 水産資源の特徴 | 陸上動物との比較から海産魚に代表される水産資源が有する特殊性を理解し, 資源量が大変動する機構について学習する. [予習] 指定図書, 配布資料等を熟読し, 以下の内容について理解しておく. 海洋生物の特徴 [復習] 以下の内容について, それぞれの意味および相互の関連についてまとめる. 海洋生物の特徴 (小卵, 多産, 分散, 初期減耗, 変態, 非限定成長, 大回遊); マイワシの大変動; レジームシフト (アリューシャン低気圧); 生活史と資源変動 | 吉永 龍起 |
4 | 生活史 | 生物の生活史について, その変異がもたらす適応ならびに進化について学習する. [予習] 指定図書, 配布資料等を熟読し, 以下の内容について理解しておく. 生活史 [復習] 以下の内容について, それぞれの意味および相互の関連についてまとめる. 生活史 (成長, 変態, 回遊, 繁殖); 回遊型 (非通し・通し回遊); 寿命; 生活史多型 (緯度と回遊型); 動的繁殖戦略; 収斂進化 | 吉永 龍起 |
5 | 漁業権-1 | 無主物である水産資源の管理について, 国内における歴史的な背景を理解するとともに, 現状における問題を学習する. [予習] 指定図書, 配布資料等を熟読し, 以下の内容について理解しておく. 漁業法と漁業権 [復習] 以下の内容について, それぞれの意味および相互の関連についてまとめる. 古代・中世・近代の漁業; 漁業法と漁業権; 遠洋漁業; 共同・定置・区画漁業権; 漁業協同組合 | 吉永 龍起 |
6 | 漁業権-2 | 無主物である水産資源の管理について, 国内における歴史的な背景を理解するとともに, 現状における問題を学習する. [予習] 指定図書, 配布資料等を熟読し, 以下の内容について理解しておく. 漁業法と漁業権 [復習] 以下の内容について, それぞれの意味および相互の関連についてまとめる. 漁業権漁業と許可漁業; 指定漁業 (大臣・知事許可漁業); 漁業調整規則; 漁場計画 (海区漁業調整委員会); 漁業法改正 (2018); 水産業復興特区 | 吉永 龍起 |
7 | 水産外交 | 国際的に共有される水産資源の管理について, 諸外国との間で問題が生じた原因を知るとともに, 解決のために必要な課題を学習する. [予習] 指定図書, 配布資料等を熟読し, 以下の内容について理解しておく. 公海と領海 [復習] 以下の内容について, それぞれの意味および相互の関連についてまとめる. 公海と領海; 遠洋漁業奨励法; 北洋漁業; ブリストル湾事件; マッカーサーライン (華東 / 李承晩ライン); ブルガーニンライン; マグロ類の遠洋漁業; 排他的経済水域 (EEZ); 国連海洋法条約 | 吉永 龍起 |
8 | 捕鯨問題 / CITES (ワシントン条約) | 捕鯨の歴史と現状を知るとともに, ワシントン条約による国際的な取引の規制に生じる問題と解決のための課題について学習する. [予習] 指定図書, 配布資料等を熟読し, 以下の内容について理解しておく. 捕鯨; ワシントン条約 [復習] 以下の内容について, それぞれの意味および相互の関連についてまとめる. 捕鯨; 国際捕鯨委員会 (IWC); 商業捕鯨のモラトリアム; シエラ号スキャンダル; 調査捕鯨; IWC脱退 (商業捕鯨の再開) CITES (ワシントン条約); 附属書 I, II, III; 締約国会議 (秘密投票と留保); 無害証明 (附属書 II 掲載種) | 吉永 龍起 |
9 | 漁業改革 (漁業法の改正) | 資源管理が有効に行われている諸外国の実情を知るとともに, 日本において将来的に求められる課題について学習する. [予習] 指定図書, 配布資料等を熟読し, 以下の内容について理解しておく. 漁業法と漁業権 [復習] 以下の内容について, それぞれの意味および相互の関連についてまとめる. 漁業改革 (水産業改革髙木委員会); 諸外国の TAC 管理 (ノルウェー, ニュージーランド, カナダ) | 吉永 龍起 |
10 | IUU 漁業 / エコラベル | 世界的に問題となっている違法・無報告・無規制な漁業についての現状を知るとともに, 適切な漁獲と流通を実現するための課題について学習する. [予習] 指定図書, 配布資料等を熟読し, 以下の内容について理解しておく. IUU 漁業 [復習] IUU 漁業 (違法・無報告・無規制); ドルフィンセーフ; エコラベル; 寄港国措置協定; 水産エコラベル; 責任ある漁業のための行動規範 (FAO); MSC (海洋管理協会); マリン・エコラベル・ジャパン (MEL); ASC (水産養殖管理協議会); Global Sustainable Seafood Initiative (GSSI); 水産エコラベル認証 (生産段階・流通加工段階認証); 水産エコラベルガイドライン (FAO) | 吉永 龍起 |
11 | 海藻類, 貝類 | 水産資源を人為的に増やす養殖と増殖について, 元種となる仔稚 (天然・人工種苗) を作り出す技術を理解するとともに, 事業の将来性および問題点について学ぶ. [予習] 指定図書, 配布資料等を熟読し, 下記の生物について基礎的な情報を理解しておく. ワカメ, カキ類, ホタテガイ, アワビ類 [復習] 以下の内容について, それぞれの意味および相互の関連についてまとめる. 養殖と増殖; 栽培漁業 餌料生物: 初期餌料 (仔魚の消化・吸収機構); シオミズツボワムシ; アルテミア; 配合飼料 海藻類: ワカメ (異形世代交代; 種苗生産; 育苗管理; フリー配偶体法) 貝類: マガキとイワガキ (養殖の歴史; 生活史; 採苗; シングルシード法); ホタテガイ (養殖の歴史; 垂下方式と地撒き方式; 猿払村; MSC); エゾアワビ (産卵誘発; 市場価値) | 吉永 龍起 |
12 | 甲殻類, 魚類の種苗生産 | 水産資源を人為的に増やす養殖と増殖について, 元種となる仔稚 (天然・人工種苗) を作り出す技術を理解するとともに, 事業の将来性および問題点について学ぶ. [予習] 指定図書, 配布資料等を熟読し, 下記の生物について基礎的な情報を理解しておく. クルマエビ, シロザケ, アユ, マダイ [復習] 以下の内容について, それぞれの意味および相互の関連についてまとめる. 甲殻類: クルマエビ (養殖の歴史; 種苗生産; 眼柄結索による成熟の誘起; ウィルス病; 国内生産と輸入) 魚類: シロザケ (生活史; 増養殖の歴史; 種苗生産; 耳石温度標識; ワイルドサーモンプロジェクト); アユ (増養殖の歴史; 海産・湖産・交雑系種苗); 湖産種苗の特性 (食資源と遊魚資源 / 耐病性); マダイ (生活史; 増養殖の歴史; 選抜育種; 交雑種) 放流効果: 標識; 人工種苗 (形態異常, コスト); 健苗性と種苗性 | 吉永 龍起 |
13 | ウナギ属魚類 (生物学的特性, 生態) | ウナギ属魚類は外洋で繁殖し, 数千キロにもおよぶ回遊を経て淡水域で成長する. この特異な生活史を持つウナギ属について, その生物学的特性と生態の特徴を学習する. [予習] 指定図書, 配布資料等を熟読し, ウナギ属魚類について基礎的な情報を理解しておく. [復習] 生活史: 降河回遊魚; レプトセファルス; 黄ウナギ; 銀毛と成熟; 産卵回遊; 海ウナギ 種苗生産: 人工催熟 (メス化, E2, 組み換えホルモン); 餌生物 (ハウス, マリンスノー); 初期餌料 (アブラツノザメ卵, 鶏卵黄, 魚肉分解物, 酸性多糖類); 飼育管理 (クライゼル型水槽; 浸透圧調節); 自発産卵 | 吉永 龍起 |
14 | ウナギ属魚類 (養殖, 国際取引) | ウナギ属魚類は世界中で資源として利用され, 特に東アジアでは高い商業的価値を持っている. 一方, 資源は激減して絶滅危惧種にも指定されており, 国際的な管理が必要とされている. そこで, 資源管理を難しくする要因を理解するとともに, 持続的な利用を実現するために必要なことについて学ぶ. [予習] 指定図書, 配布資料等を熟読し, ウナギ属魚類について基礎的な情報を理解しておく. [復習] 商業利用: 養鰻方式 (粗法的, 集約的, 周年・単年養殖); 特別採捕 (シラスウナギ); 大臣許可事業 (養鰻業); シラスウナギの問題 (密輸, 偽装); 鰻川計画 資源管理: 産卵場調査 (大西洋, 太平洋); 産卵生態の解明 (ニホンウナギ); 熱帯種と温帯種; レッドリスト; CITES | 吉永 龍起 |
15 | 全体のまとめと小論文に関する説明 | 第 14 回までの内容がどのように関連しているのかを学ぶ. また, 小論文の課題および作文技術を理解する. [予習] 指定図書, 配布資料等を熟読し, 全体の内容を理解しておく. [復習] 資源を持続的に利用するための技術, ならびに現状での問題点を整理する. これを基に小論文を作成する. | 吉永 龍起 |